売上は右肩下がり。
借金も重たい。
「だから、廃業するつもりです」
こんなご相談が、関西の食品加工会社の社長さんからありました。
廃業の依頼に会社分割を提案!?
私は「社長のおわりに寄り添うこと」をテーマにしたコンサルティングをしています。
会社をたたみたいといった相談も寄せられます。
会社分割ドットコムを運営していますが、その手続きをしているだけではありません。
こちらの会社では、かつての新規事業への失敗が負債というかたちで残っています。
重たい借金を引きずりながらここまで粘ってきたのでしょう。
またこのところ売り上げは年々下降傾向にあります。
しかし、テコ入れして盛り返そうとするにはお金も余力もありません。
年齢が74歳ということを考えても、社長が先頭に立ってどうにかするというのも現実的ではなさそうです。
廃業という選択肢を選んだこともうなずけるものがあります。
でも私は、会社分割を提案しました。
事業としていい面もあり、それを無くしてしまうのはもったいないと思ったからです。
卸先には安定した大手がありました。
製造技術だってそう簡単に構築できるものではないでしょう。
事業にはまだ価値がある気がしました。
ただ、その価値を使って自力で立て直すには、厳しいものがあります。
そこで他者への引継ぎを考えました。
社長さんに聞いてみても、「事業に興味を示す他社あるだろうけど・・・」とのことです。
社長さんは、他社が事業を欲しがる可能性は認めましたが、煮え切らない反応も同時に示しました。
それは会社の財務内容が頭をよぎったのでしょう。
「こんな借金を肩代わりまでして会社を引き取ってくれる人はいないだろう」と。
そこで「会社分割」なのです。
いい部分だけでも引き取ってもらう発想
会社分割で、事業だけを別の会社に移せば財務内容を改善させられます。
その状態ならば買ってくれる会社もありそうです。
元の会社には借金が残ることになりますが、何もしないでただ廃業するよりはいい結果になるものです。
いわば「いずれにせよ廃業するならばより価値が残せるように動いてみましょう」ということ。
結果がでなければ、当初の思惑どおり粛々とたたんでいくだけです。
こんな提案をしたところ、社長は乗り気になってくださいました。
ただ相手も見えていないのに会社分割をしてしまうのはリスクです。
「わざわざお金と手間をかけたのに、どこからも買手が現れなかった」となるともったいない話です。
今回は可能性や状況を全体的に考え、「事業が欲しい」という買手が現れたところで会社分割をする安全策をとりました。
買手が見つかった!
幸い買手は比較的あっさりと見つかりました。
社長さんに興味を持ちそうな会社をあげてもらい、その中の1社に声をかけたところ、すぐに「ぜひ!」ということになったのです。
私が扱うようなM&Aでは、こんな狭い範囲でどうにかなるケースが多くあります。
広く買手を探そうとすると時間がかかるし、だからといって売れる可能性が高いわけでもありません。
また、専門業者を使う必要も出てきたりで、高額な仲介手数料などが必要となることもあります。
もちろん場合によっては、こちらの方法を推奨するケースもあります。
しかし今回は、あまり大事にしたくなかったことや、時間的猶予がなかった点から、顔の見える相手に絞って声をかけました。
買手がみつかったので、先方の希望もふまえて会社分割の設計をしていきます。
「どの資産や、どんな契約を承継させるか」などの調整です。
また青写真ができたところで、銀行にも説明に行きました。
「利害対立になる銀行には黙ってやってしまったほうがいいとあるコンサルタントに指導された」なんて話を耳にすることがありますが、個人的には反対です。
あとでしっぺ返しがくるのが怖いですし、話のもっていき方でどうにかできる場合がほとんどでしょう。
要は共通の利益を見せればよく、そのための脚本づくりが肝になるというわけです。
本件では、銀行や仕入れ先、顧客などの理解も得られ会社分割と会社売却を実現することができました。
財務的にリフレッシュされた会社は、新たなオーナーと社長のもとで事業改善に取り組んでいます。
残りの借金は?
元の会社の社長さんのもとには、借金が残りました。
結果として、会社分割で設立した会社を売却しても、借金を全額返済するほどの対価は得られませんでした。
しかし、ただ単に廃業させたときよりは、多くの借金を返済できました。
銀行は社長さんのこの姿勢を評価してくれています。
あとは保証協会も交え、残った借金の分割払いを開始しました。
それも月々の年金等から、十分支払い可能な範囲に収まっています。
【奥村のコメント】
このケースでは、どうにか良い結果に転じさせることができました。
ただし、すべてのケースでこう上手くいくわけではありません。
上手くいく条件としてこんなことを考えています。
①早めに動くこと
②全体を見て作戦を立てられる人材がいること
③正直にオープンにやれること
あまりにギリギリになってから相談に訪れるケースが後を絶ちません。
たとえば「来月末で資金ショートしてしまう」といったところです。
半年ぐらいの猶予があれば、策を作って手を打つのが楽になるのですが……
誰が采配をふるうかはとても重要です。
船頭は二人いたらおかしくなるので、最期は「この人だ」と委ねる必要があります。
そして、やるからには肚を括って堂々とやらないと結果は出ません。
いつまでも見栄をはったり、怖がっていたらチャレンジは成功しません。