離婚×会社分割
「離婚をしたから会社を分けたい」という相談がありました。
論点に入る前に、普通の離婚の流れをおさらいしてみましょう。
離婚を原因とし、夫婦が共同で作った資産(および負債)を分ける行為を「財産分与」と言いますね。
例えば、「自宅は夫名義になっているけれど、これを離婚にともなう財産分与として妻のものにしましょう」といった協議を行います。
それで話がまとまれば不動産登記の名義を変更します。
資産の分け方を決めて、名義変更の手続きをするだけなので、そんなに難しい問題はなさそうに思われるかもしれません。
もちろん通常は親権だ慰謝料だの話も加わり、泥沼化する協議もありますが、やることはシンプルです。
相談者の花子(仮名)さんも同様に、私の話を聞くまでは簡単に考えていました。
★会社を二つに分けるとはどういうことか?
花子さんは、元の夫の太郎(仮名)さんと、不動産大家会社を運営していました。
戸建の物件の他に、大きなアパートも数棟保有している会社です。
この会社を離婚に伴い、2つに分けて、それぞれ別々に経営したいということです。
私としては「はいそうですね」と安請け合いはできません。
「会社を二つに分ける」ということが、何を意味しているのかを相談者と確認する必要があります。
会社分割等を使えば、会社は二つに分けることができます。
それぞれを花子さんと太郎さんが経営すれば、これで「会社を分ける」が実現したと思われるかもしれません。
しかし、会社には株式があります。
こちらの問題がまだ残ります。
たとえば、会社分割のあるパターンをつかえば、元の会社と新しく作った会社の株式を花子さんと太郎さんで所有することになります。
元の会社の株主は、花子さんと太郎さん。
新しく作った会社の株主も、花子さんと太郎さん。
こんな具合になったりします。
お互いの権利関係が交錯したままでは、婚姻関係を解消できたとは言えないでしょう。
私たちは、日常生活において自分の会社の株式なんて意識することはそうそうありません。
今では株券もないケースが多いので、その存在を実感できる場面もほとんどありません。
しかし、確実に概念上は存在します。
そして、株式の問題が、いざ法律のトラブルが発生したときは決めてとなります。
花子さんのケースにおいては、会社を分けるだけでなく、その後に、株式まで整理しておくべきだということになります。
★さらに税金と費用の壁
「株式なんて、財産分与や贈与で移転すればいいだけじゃない?」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。
たしかに、法律行為は自由なので、例えば「太郎から花子に株式を贈与する」とできます。
しかし、そうすると今度は税金の問題が生じることがあります。
下手にやると大きな税金を納めなければいけなくなるかもしれません。
花子さんと太郎さんが運営してきた会社には、不動産による大きな資産があり、株価が高くなっています。
母数が大きいので、もし課税されるとなると税金も大きくなるわけです。
花子さんと太郎さんの個人に発生する税金も考えなければいけませんが、会社のほうに発生する税金も考えなければいけません。
会社分割のやり方次第では、分社自体に課税されることがあります。
しかも、会社の不動産には含み益があります。
簿価よりも時価のほうが大きい状態です。
分社の場面では、この含み益に対して課税されることが起こりえます。
さらに別の税金や手続き費用も検討しなければいけません。
元の会社から新しい会社へ不動産の名義を変更すれば、不動産取得税がかかる場合もあります。
少なくとも不動産登記の費用は必要です。
また、会社分割等の商業登記の費用も必要です。
★結局のところ……
ここまでお読みいただいて、「まったく、なんのことか分からない」と混乱された方が多いかもしれません。
申し訳ありません。
ただ、そう思っていただきたいのがこの記事の狙いだったりもします。
会社を分けるという行為自体にもクリアしなければいけない壁はたくさんあります。
そこに追い打ちをかけるように税金や費用の問題も重なってきます。
これらを総合して「どんな方法でやるのか?」を導き出すことはとても大変です。
まずは、この点を押えておいていただきたいところです。
そして、実行するにはそれなりにお金を出す覚悟が必要です。
私は、安全かつ費用を抑える方法を頭の中に汗をかきまくって考えます。
それでも、まったくもって出費を無くすことはできません。
今回のケースでは、税金と手続き費用の合計が500万円を超えるシミュレーションとなってしまいました。
自分で言うのもなんですが、会社分割を使ったかなりいい案を導き出すことができた上でのことです。
杓子定規でやれば、さらに大きな費用がかかるか出口が見つからなかったでしょう。
「本当に、こんあお金をかけてでもこれを実行しますか?」という問いに花子さんは「将来のことを考えると、費用をかけてでもちゃんとやっておきたい」という回答をされました。