「今の会社を経営できる後継者はいない!」
愛知県で、とある上場企業のグループ企業より、講演の機会をいただいたことがあります。
協力会社で構成される会で、相手はベテランの中小企業の社長さんばかり。
事業承継の現場での取り組みについてご紹介させてもらいました。
その後の懇親会で感想を聞いたところ、会社分割を使って会社を小分けにする手法への強い反響がありました。
「これならばウチの会社でも使えるかも」という感触を得られた方が多かったようです。
講演を聞いていただいた会社は、従業員でいうと50名から300名ぐらいの規模でした。
中小企業とはいえ、街場の会社の中ではかなり大きめです。
社長が経営努力を重ねてきて、積極的に新しい事業へのチャレンジもなされている会社が多そうです。
そんな会社が、いざ事業承継の問題に直面したときに「はたして、ウチの会社を誰か継げるのだろうか?」という疑問が生じます。
それも当然です。
ほとんどの会社は、社長さんの頑張りと力量でここまで来ました。
その社長の座を引き継ぐに値する能力や経験を持っている人は、社内や身内にいるでしょうか。
普通はいません。
社長さんが事業承継で悩み、何をしていいのか分からなくなってしまうのもうなずけます。
★会社分割が事業承継の壁を打破!?
こんな状況に対し、私は会社分割を使って会社を小分けにして継がせる方法を紹介しました。
大きな会社を丸ごと承継したら、後継者のキャパシティをオーバーしてしまうのかもしれません。
しかし、会社を小さく分けて、それぞれの経営を担わせるならば、どうにかなる場合があるはずです。
たとえば、部長クラスならば、他の部署のことはともかく自分の部署のことはよく分かっているはずです。
ならば「部署ごとで一つの会社にすることで、経営できるようにしてしまおう」というような発想です。
講演を聞いていただいた社長さんの中には、「この方法に可能性を感じる」と思っていただいた方がたくさんいらっしゃいました。
もうちょっとやり方を具体的に見ていきましょう。
まず、A事業とB事業を行っている会社があるとします。
株主は社長です。
この会社の事業承継を考えるに、適任者が見つかりません。
そこで、A事業とB事業を別の会社にすることを試みます。
この場合は、B事業を会社分割で外に切り出し、新会社を設立するとしましょう。
A事業を行う会社の社長と、B会社を行う会社の社長として別の人材を登用します。
AB両方の事業のことを分かっていなくても社長が務まるので、経営人材の確保のハードルが下がるはずです。
場合によっては、先代の社長がそのままA事業を経営し、新社長がB事業を行う会社を経営するという方向性もあるかもしれません。
さらに発展形として、持株会社を中心とした企業グループの構成も考えられるかもしれません。
先ほどの例では、社長である株主に新会社の株式を持たせました。
そうではなく、持株会社を間に挟む方法をとることにメリットがある場合もあり得ます。
各事業会社の経営者が、持株会社を中心としたグループの運営を合議で行ったり。
持株会社が、資産管理や銀行借り入れ、求人などをまとめて行ったり、といったやり方が考えられます。
★本当に会社の永続を願うならば……
後継者が会社全体に対する経営能力を有していない場合の会社分割の活用方法は、いかがでしょうか。
事業承継の道が拓ける場合があると期待します。
ふさわしい後継者がいないケースで、巷ではM&Aという切り口がブームとなってきました。
一般的には、自社よりも大きな会社に買い取ってもらうケースが多いでしょう。
この方法にも、メリットはあります。
株式を売却するということで、社長がこれまで築いてきた会社の価値を換価して手にすることができます。
また、自社よりも大きな会社に抱きかかえてもらうことへの安心感もあるはずです。
しかし、これらは社長さんが抱えるすべてのニーズに合致するわけではありません。
会社を手放すことよりも「自分に近いところで会社のことを見守っていきたい」と願う方もいるはずです。
また、会社の永続という面を考えた時、本当にM&Aがベストな選択肢なのかは疑問があります。
M&Aの取引では、実際に会社を引き取った買手の7割が「M&Aを失敗した」と評価します。
買い取った会社の経営がなかなか思ったようにいかず、メリットを手にできないものなのでしょう。
そうなると、あなたが売った会社は厄介払いされてしまう恐れがあります。
買手は、先代のように会社への思い入れが強いわけではありません。
また、その会社にいる従業員は「買い取った会社の社員」として扱われることになります。
面白くない思いをしたり、窮屈な思いで仕事をしなければいけない場面があってもおかしくありません。
この点、会社分割を使って会社を小分けにする方法だとどうでしょうか。
会社のことをよく分かっている人材を社長に着かせることができそうです。
また、自分たちの会社が主体的に仕事ができます。
(買い取られたきた子会社という立場と比較してみてください)
M&Aにはない良さがあるはずです。
★実行にあたって注意したいこと
会社分割を使う方法は、上手くやれば大きな効果を発揮します。
しかし、下手を失敗すると効果がないどころか、マイナスを生じます。
まさに「生兵法は大怪我の基」といった類の取り組みです。
会社分割を軽く考えて進めないことが大切です。
慎重に計画を立ててから進めるべきでしょう。
この点、自信のある社長さんほどうっかり落とし穴にはまって、失敗しやすいのかもしれません。
会社を分割するということは、会社そのものにメスを入れることです。
法律だけでなく、税金などのさまざまな分野に関連してきます。
そして、なにより経営です。
経営面への影響を考慮しながら上手にやらなければ痛い目にあります。
また、お金や法律などにばかりに目が行きがちですが、そこには人がいます。
後継者や従業員、さらには顧客や債権者がいます。
こんな関係者の人間感情を見落としてしまうと失敗してしまいます。
素直に外部知恵と経験を借りてしまうのも一手でしょう。