最初は弟さんからの相談でした。
お兄さんが社長、弟さんが専務をしている大阪と兵庫をエリアとする会社です。
長年この体制でやってきたものの、ここ数年は経営方針をめぐってお互いの意見が合わなくなっていたそうです。
専務なりこれまでもいろいろと考え、事態を打開しようと手をうってきたものの、結果は出ず。
ここにきて「もう会社を2つに分けて、別々に経営しよう」という発想になったそうです。
兄弟や友人どうしで経営していると、経営方針がずれてくるような場合もよくある様子です。
専務からは、僕に「会社分割の指導やコーディネートをしてもらいたい」という話でした。
ただし、兄であるお兄さんはまだ奥村に相談をしていることを知らないそうです。
僕は「社長も奥村が間に入ることを了解してくだされば、仕事を引き受けます」とお約束しました。
専務は分社する気満々でも、株式の半分を持つ社長にその気がなければ、分社は実現できないためです。
また、間に入ってフェアに調整するためには、僕が社長からも信頼してもらえなければいい仕事ができません。
僕がやっているのは、弁護士のように依頼者の利益を守るために、相手と戦うスタイルではありません。
お互いの妥協点を見出しできるだけ穏やかに済ませるために、交通整備をするのが役割です。
幸い社長も、分社をすることと、奥村を間に入れることにはYESと言ってくださいました。
きっと社長も専務との考え方のズレに悩み、その出口を求めていたのでしょう。
はじめて二人でお会いして、これまでのいきさつなどを深く聞きました。
当事者の一方から聞いただけでは見えてこなかったことが分かってきます。
「ここまで来てしまった以上、どちらかが会社を辞めるか分社しかないと心のどこかで思っていた」と語っていました。
お仕事を引き受けることが決まってからは、両者の間を行き来して、会社を分けるための論点を詰めていきました。
事業はどう切り分けるか?
従業員は?
銀行の借金はどうするか?
お客さんにどうやって伝えるか?
スキームとしては、会社分割を使って一部の事業を子会社とし、その子会社の株式を専務が引き受けることにしました。
その過程で、適格分割や非適格分割といった論点から「課税は大丈夫か?」を、顧問税理士さんを交えてチェックしました。
退職金を利用して、専務が株式を引き受ける原資にしたり、も。
分社までの地図を描けてからは、社長と一緒に資料をもって銀行に説明に行ったりもして、最後は登記を出しました。
感情的に複雑に絡み合ってしまった状態からはじまったこの案件でしたが、どうにかゴールにたどり着くことができました。
肝はなんといっても、お互いが納得できるようにするための感情面のケアだったのでしょう。
人間は感情の動物です。
数字や理屈だけでは動きません。
会社分割のやり方や税金の話などのロジカルなところに目が行きがちですが、人の心の動きを見落としては痛い目にあいます。
繊細な人の心を上手に扱うためには、その人間に高いヒューマンスキルが備わっていなければならないでしょう。
やはり場数と仕事への使命感がものを言うのだと思います。
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