借金が大きくなり過ぎた会社を承継させるか?
かつて、ある北陸の会社で手がけたプロジェクトをご紹介しましょう。
この会社は業界の老舗なのですが、負債が大きくなっていました。
お金が借りなくなった時に銀行から借金をする。
返済の計画等は考えず、なんとなく借りる。
これが常態化し、気が付けば資産と同じ金額の負債が積みあがっていました。
資産には時価に引き直せば目減りする物があります。
たとえば、実際のところ保有する不動産の値段は下がってしまっています。
この点を考慮すると、実質は資産よりも負債のほうが大きい『債務超過』です。
ちなみに銀行目線で考えれば、そんな状況の会社にお金を貸し続けたことが不思議に思われる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、経営者の持つ個人資産の担保を見込んでいたり、これまでの付き合いの延長であったりと、ズルズルと融資をしている場合は結構あります。
ただし銀行業務の環境も変わってきているので、こういったルーズな付き合いは減りつつあるところです。
この会社の場合も、いつ「今後の融資はできません」と拒否されるか分からない危険をはらんでいました。
★負債が大きすぎる会社を継がせると後継者はどうなる?
話を戻しましょう。
こちらの会社の社長がもう60代後半でした。
現場で頑張っているお子さんがいて、後継者となる予定です。
事業承継を考えていく時期ですし、それが可能な状況です。
しかし、「普通に事業承継を進めていったらどんなことになるか」を想像してみましょう。
お子さんが社長になるや否や、銀行から個人保証を求められます。
これで個人と会社の財務内容が縛り付けられます。
会社が借金の返済不能に陥れば、お子さんは自宅等の個人資産を売りに出してでも借金を肩代わりしなければいけません。
しかしその金額は大きく、個人的には支払いきれるものではないでしょう。
すると、破産という末路を迎える可能性も大きいところです。
会社の財務内容が悪いので、十分に予想される未来です。
事業承継をする場合に、こんなところまで注意を差し向けなければいけません。
大きすぎる借金を抱えた会社をわざわざ危険をおかして承継するのか。
M&Aの視点を導入してみたら、こんなおかしな話はありません。
マイナスを押し付けられるような取引をする買手はいないでしょう。
家業の事業承継だって同じだと思います。
自ら進んで地獄に落ちる必要はありません。
自分の人生の行く末が決まってしまう判断なのだから、十分に注意し、必要な情報を仕入れてから行うべきです。
後になって「知らなかったんです」では通じません。
感情やきれいごとばかりを優先すると、目が曇って判断を誤りがちな場面です。
★分社で選択肢を増やす
とはいえ、会社をただ見捨てるのは忍びない。
また財務状況はよくないけれど、会社の全てが悪いわけではない。
こんなジレンマがあったりします。
そこで、今回は分社を使って苦しい状況の打破を狙いました。
分社の内容と狙いを少し説明してみます。
まず、あらかじめ会社を分けてしまいました。
後継者となるお子さんが担当していた事業を別会社に移しました。
これから手掛けようとしていた新規事業もありましたが、これも別会社でやることにしました。
この別会社をお子さんは元の会社から買い取りました。
コンパクトな内容することで十分に買い取ることができる価格に調整しました。
あとは、それぞれ経営をしていくだけです。
先代は残された旧会社の社長、後継者は分社してできた新会社の社長を務めます。
「たったそれだけ!?」と感じるかもしれません。
そのとおりで、それだけなんです。
しかし、こんな仕込みをいれておくことで、会社を部分的に保全し、後継者は新しい選択肢を手に入れることができました。
★分社にどんな意味があったのか?
もし、分社をしていなかったら、どうでしょうか。
後継者は、会社をそのまま継ぐか、一切継がないかのどちらかしか選択肢を持ちません。
大きな借金を恐れて継ぐことから逃げれば、会社はつぶれてなくなります。
従業員や取引先に迷惑をかけてしまうし、無くすには惜しい事業や技術まで失います。
だからといって継げば、重たい負債に足をとられて進めません。
いずれ倒産する可能性が高いところです。
しかし、分社をした今回のプロジェクトでは、後継者の会社で引き継いだ部分においては、保全することができています。
もちろん会社を継続できるような上手に経営をしなければいけませんが、余計なものやマイナスは前の会社から引き継いでいません。
悪い部分をリセットできているので会社を浮上させられる可能性は増します。
さらに、これまでのようなルーズな経営を改めれば、強い会社になれるはずです。
お子さんが自分で引き継いだ部分を経営するのですから、一部分の保全は実現できています。
分社をしなければ、会社のすべてを消失して無に帰していた可能性があったことと比較してください。
これだけでも価値がある取り組みといえるでしょう。
まだ、父と共に旧会社に残った部分の問題が残ります。
大きくなった借金もこちらに残っています。
しかし、あくまでもう別の会社の話なので、お子さんとしては無理をして出も引き継いであげなければいけない必要はありません。
見切りをつけてしまい、いずれ潰れていくのをはた目にみるという態度もとれます。
もしくは積極的に救いの手を差し伸べることもできます。
沈んでいく船から人を助け、積み荷を引き上げるようなイメージです。
たとえば、旧会社から事業や資産だけを買い取ってあげる場合もあり得るでしょう。
★債権者が黙っていないのでは!?
「こんなことをして銀行は怒らないの?」という疑問を持たれた方がいらっしゃるかもしれません。
そう感じるのも当然です。
もちろん法律問題にならないようにやらなければなりません。
実際にやるには、上手に説明をして理解してもらわなければいけない場面も出ます。
ただ、前提として共有していただきたい考え方があります。
それは、過大になった負債を後継者一人に押し付るのはおかしい、ということです。
犠牲を押し付けるべきではありません。
このプロジェクトは、後継者に継いでもらうに値するかたちを作ることが趣旨です。
そうすることが、会社や債権者や、従業員や取引先、さらには地域社会の利益を最大化させることにつながります。
★この手法のまとめ
概念的な話で、いまひとつしっくりこなかったかもしれません。
整理すると、まず分社を使って必要な部分だけを後継者が引継ぎました。
これにより不要な部分や悪い部分を除いて会社を承継できたことになります。
分社をつかうことで会社をリセットすることができました。
そして将来、旧会社の処理について、後継者は主導権をもつ立場で話し合いに参加することができるようになりました。
必ずしも何かを引き継いだり、支援する義務はありません。
したければすればいいだけです。
何もしなければ、会社を継いでも、継がないくても、後継者は追い込まれる立場になっていたでしょう。
大きな差があります。
工夫と少しの勇気があれば、分社を事業承継についかってこんなことができます。
しかし、先に仕込まなければいけません。
先代の社長が亡くなったり、借金の返済で首が回らなくなってからでは手遅れです。
(奥村コメント)
後日談です。
分社で作った会社を後継者は頑張って経営しています。
お金面のことをルーズにせず、内側もしっかり固めています。
結果、予想を大きく上回るレベルの会社に成長しています。
この調子だと旧会社の借金まで返してあげられるようになってしまいそうです……
思惑が外れた面がありますが、そうなればなったで結果オーライですね。
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